ボッケリーニのソナタを聴き比べてみる。
ルイージ・ボッケリーニ(Luigi Boccherini, 1743-1805)とは18世紀に活躍したイタリア出身の作曲家・チェリストで、今年没後200周年を迎える。来年生誕250年を迎える大御所と比べると、その扱いが地味であり、そのためかおそらく世界中でもっとも有名な配管工事業者の弟と混同されることもあると聞く(嘘)。クラシック音楽に興味のある人だと、チェロ協奏曲をご存知かもしれないがするのだが、実はこれらは19世紀の出版社によって創造されたというのが通説だったりする。ボッケリーニによるとされている作品は多数あれど、その真偽が疑われているというのが現状のようだ。
笛吹きな私であるが、実はチェロやヴィオラ・ダ・ガンバなどの低音弦楽器が好きである。高音楽器にはない深い音色や幅広い音域などがその理由であるが、そのうちボッケリーニの作品とされるもの、特に、チェロソナタを好んで聴いており、古楽器による演奏でも計4枚も手元にある。ボッケリーニはチェロの大名手だったこともあり、いずれのチェロソナタも超絶技巧の演奏技術が要求されるうえに、音楽的にも素晴らしいと私は考える。せっかくだから、それらを聴き比べてみることにしよう。ちなみに、ご紹介する3者ともG.17のハ長調ソナタを録音しているので、直接対決ができる。
まずは、バロックチェロの大御所アンナー・ビルスマ(Anner Bylsma)による演奏2枚。この人はボッケリーニの作品を積極的に取り上げており、ソナタは他にDAS ALTE WERKというレーベルに残した録音もあるようだ(未入手)。1枚目は昔の古楽器定番レーベルSEONで1981年に録音したものをビクターBGMが1992年に再販したもの(BVCC-1871)。おそらく2005年現在は入手が難しいと思われるが、いずれまた再販されるだろう。通奏低音はヴィーラント・クイケン(Wieland Kuijken)のチェロとホプキンソン・スミス(Hopkinson Smith)のギターとシンプルながらも豪華な顔合わせ。比較的古い録音だが、実に生き生きとしたすばらしい演奏(「ヴィーラントってやっぱりあんまりチェロうまくないかも」と思わせる点がちょっと残念だが)。もう一枚はSonyのVIVARTEレーベルで1992年に録音したもの(SK53362)。こちらの通奏低音は、ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)とファン・アスペレン(Bob van Asperen)のフォルテピアノと通例の「Vc + Cemb」とは一味違う響きだが、全体的に落ち着いた雰囲気の演奏。ソナタだけでなく、2本のチェロのためのフーガが間に挟まれており、飽きさせない。
次に、私がボッケリーニのチェロソナタに開眼するきっかけとなった一枚(RIC 122107)。日本を代表するバロックチェロ奏者である鈴木秀美(Hidemi Suzuki)氏が、18世紀オーケストラの朋友ライナー・ツィパーリング(Rainer Zipperling)と一緒に録音したもの。レーベルはベルギーのRicercarでまだ鈴木氏が欧州を中心に活動していた1992年である。演奏は今回紹介する中では、最もスタンダードで奇をてらわない演奏だ(通奏低音がVc+Cembという編成だからだろうか)。しかし「スタンダード」だからといって断じてつまらない演奏ではなく、個人的には一番しっくりと来る。録音は古い修道院でなされたと書いてあり、響きが非常に豊か。
最後にもっとも新しいブリュノ・コクセー(Bruno Cocset)によるもの。現在、大き目のCD店舗で簡単に手に入れることができる。新鋭αレーベルで録音を続けているコクセーがLes Basses Réuniesという低音楽器のアンサンブルを率いての新録音(Alpha 084)。さすが今年の録音ということもあり、録音状態はすばらしい。演奏には一切破綻がなく、今回紹介する中では最も高水準のレベル(難しいと思われるハイポジションも絶対に外さない)。音楽は何より勢いがあり、聴いていて楽しい。協奏曲をアンサンブル編成で録音しているのが珍しい。一番のお勧めかも。
と、たまにはまじめに書いてみるのだ。