学位論文の道のりについて事細かに書いてあるページは星の数ほどあれど(ってそんなにないか)、どのツールを使って執筆するのかまで書いたページは少ないような気がするので、補完する意味で書いておこうと思うのだ。
言うまでもないと思うが、綺麗な論文の執筆には基本的に(La)TeXは必須だ。
TeXを使えば、Postscriptへ変換でき、更にPDFにするのも簡単なので、可搬性(portability)という観点からするとほぼ理想的である。私がまだ学部生だった15年ほど前にTeXと初めて遭遇したのだが、その頃ちょうど全盛期を迎えたワードプロセッサが子供だましに見えてしまうほど美しい出力に感嘆したものだ。レイアウトは自動的に行われるので、コマンドの入力は多少煩わしいものの、執筆に専念できる。また数式の美しさは特筆に価する。理系文系を問わずお勧めしたい。ちなみに現在では、LaTeX2εが主流となっており、便利なスタイルファイルも豊富にあるので、適当な配布形態をインストールしてそのまま使用して問題ない。
とはいえ、この「配布形態」の選択が重要だったりするのだ。というのも、ここの選択を誤ると、やりたいことが限定されてしまう可能性がある。LaTeXをとことん使う目的では、PC/AT互換機(いわゆるDOS/V機?)を使用する場合、今のところほぼ3通りの手段がある。
- Linux/FreeBSDなどのUNIX互換OSをインストールする。
- Cygwinをインストールする。
- TeX for Win32をインストールする。
こうして書いてみると、どれも意外とハードルが高いことに気づく。これだからTeX人口が増えないのだ、というのはさておき。
私の場合は、TeXのインストールには2番目の選択肢を用いることにした。Cygwinを選択した理由は、setup.exeをダブルクリックしてインストールしたいパッケージを選んで「ぽこ」で済むというほぼ理想に近いインストール環境であること、Windowsのアプリケーションをそのまま使える上にX windowも立ち上がるため、いろいろと便利なこと(詳細は後述)である。しかし、問題はCygwinはデフォルトでは日本語をうまく扱えないという問題がある。このため、中丸さんの「Cygwin + X + 日本語アプリケーション」を活用させて頂いた。ここのサイトは細やかにアップデートされているので、非常に良い(余談だが中丸さんは私の研究室の隣の隣にいらした方だが、私のことは覚えておられないだろう…)。ここのパッケージをインストールして地道にCygwinで日本語を使う環境を整えよう。
しかし、上記の中丸パッケージ群には日本語の通るTeXが含まれていない。そのとき、大変ありがたく使わせて貰ったのが、こちらの「Cygwinで日本語TeX - ptetexを簡単インストール」である。ここに記載してあるとおりにインストールすれば、本当に簡単にインストールできる。ちなみにTeXファイルの編集には、お好きなエディタをチョイスするのがよい。私の場合はWindowsで動くemacsであるMeadowだ。
次に考慮しなければならないのが、図をどうやって作成して張り込むかである。TeXはEPS(encapsulated postscript)と相性が良く、graphics.styを使用すれば、そのまま埋め込むことができるのでこれを前提としよう。
ではこのEPSファイルをどうやって作るか。Windowsの場合はWMF2EPSという強力なツールを利用することができる($20なので安いもんだ)。これを使用すれば、Excelのグラフやパワーポイントの図など、WMF(windows meta file)形式のたいていのものはEPSにすることができる。
もし、一から図を書き起こすのであれば、Tgifをお勧めする。ここでCygwin(あるいはUNIX環境)を選ぶ必要性が生じる。というのも、Tgifは基本的にX windowが必要とされるためだ。私が学生の頃はidrawと呼ばれるソフトを使用していたが、現在はもっぱらこちらを愛用している。LinuxなどのUNIX互換OSを選択した場合はRPMなりpackageなりをgetしてインストールすれば良い。環境としてCygwinを選択した場合は、前述の中丸さんの「Cygwin + X + 日本語アプリケーション」にあるパッケージを利用すると良い。
実はTgifは、pstoeditと併用するとその強みが一層発揮できる。というのもTgifはEPSファイルを作成できてもEPSファイルを読み込んで編集することができないからだ。しかし、pstoeditを使用すれば、EPSファイルをTgifの形式に変換して編集することが可能となる。たとえば、私のように古い論文に載せた図(EPSファイル)を一本の学位論文に再構成する場合には、全体的な統一感を出す必要がある。このためにフォントの設定なども含めて再度編集するときなどに実に有効だ。また、WMF→EPS→Tgifというパスを通れば、どれも同じ感覚で編集することもできる。ちなみに、pstoeditは基本的にUNIX環境での動作が前提となっているので注意を要する。Cygwinではコンパイルする必要があるので、この点だけはちょっとハードルが高い(いっそすっぱり諦めて「EPSファイルを編集しない」という選択肢もあることを忘れずに)。
これで、ほぼ論文を書く環境は整ったはず。気が向けば今度は論文のフォーマットやフォントなどの細かいことについて書いてみようかと思うのだ。
(2006/9/22補筆)