Piazzolla: Tango: Zero Hour
★★★★★(必携・自他共に認める名スタジオ録音)
ここにあるのは硬派なピアソラだ。触れただけですぱっと切れてしまうような緊張をスタジオ録音によって閉じ込めた。間違いなく後期五重奏団録音の最高峰である。私が初めて購入したピアソラの演奏はこれだったのだが、開始30秒でのけぞるような衝撃を受け、そしてピアソラ探求道に入り込む羽目になった音源である。
読経のような人の声、笑い声、ピアソラ自身の声が不気味に重なるオープニングに続くのは、硬質で極端に重いタンゴのリズムに乗せられた半音下降の主旋律が印象的なTanguedia III。どこまでも官能的な天使のミロンガ(Milonga del Angel)、そして五重奏のための協奏曲(Concierto para Quinteto)とすべてが名曲ぞろい。しかし個人的に一番押したいのは、Mumukiである。切ないほどの愛にあふれ、(誇張ではなく)涙なしでは聴けない。
この音源といつか紹介したいと考えているラ・カモーラ(La Camorra)は、ジャンルを超えた永遠に不変的な音楽を刻む銘スタジオ録音である。