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February 2, 2010

Piazzolla: Milva & Piazzolla Live in Tokyo 1988

★★★★★(ピアソラ歌曲音源の決定版)
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ピアソラ『ライヴ・イン東京シリーズ』三部作と銘打たれ,つい昨年末に発売された音源である.後期キンテートを解散直前の1988年にお気に入りのイタリア人歌手ミルバとともに来日して行った伝説的なライブだそうだ.1988年といえば私は古楽にしか興味のない純真無垢(?)な高校生で,このような大人のための音楽を聴きに行くわけもない(というかこの時期は日本にいなかった)ので,今になってこのような音源が聴けることがどんなに幸せなことか.

演奏はというと,ピアソラキンテートが得意とする定番曲も出来は良いが,何しろミルバの歌が最高の出物である.ロコへのバラードなどもほとばしる激情を歌い上げており鳥肌ものであるが,キンテートのサポートも存在感も抜群.1982年の音源とは異なり,コントラバスの重い低音まで余すことなく収録されており(ちょっと低音を持ち上げすぎな感もある),ライブ録音としての不満はない.ミルバの奔放なルバートをものともしないアンサンブルは正確無比で,全員の音のスピード感も抜群に良い.日本語の混じったミルバのスピーチの後のアンコール(「ロコへのバラード」と「チェ・タンゴ・チェ」)も一切の手抜きなし.ピアソラの掛け声もかっこいい.

この録音を聴くと,後期キンテートは正にその絶頂期で解散したことが分かる.別項で紹介済みのTristeza de un Doble A/AA印の悲しみLive in Wien/ライブ・イン・ウィーンに肩を並べる極めて良質な音源だと思う.これら2つはキンテートのみであるから,歌の入っているものでは唯一無比と言っても過言ではないのではないか.

文句なしの五つ星.

September 18, 2009

Piazzolla: Live in Colonia, 1984

★★★★☆(後期キンテートの定番ライブ曲大集合)
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録音は1984年だが、比較的最近のリリース(2003年)だ。2枚組みと大変充実した内容な上に録音状態も良く古さを感じさせない。天使シリーズがすべて収録してあるし、「AA印の悲しみ(Tristeza de un Doble A)」を単体でも、録音・演奏ともに以前紹介した同名のライブアルバムに次ぐデキだ。Adios Noninosもしみじみとした良い演奏である。

後期キンテートの演奏としてはウィーンで同時期に収録されたライブ録音(別項で紹介済みのTristeza de un Doble A/AA印の悲しみLive in Wien/ライブ・イン・ウィーン)に比べれば若干リラックスしているが、演奏は丁寧であるため物足りなさはない。ピアソラの流暢なアメリカ英語も聴ける。後期キンテートのライブ定番の曲が網羅されており、すべてが水準を満たした演奏・録音であるため、ウィーン録音の2枚、セントラルパークとこの一枚あれば後期キンテートの他のライブ盤は手を出さなくとも良いかと思えるほどだ。輸入版ではあるが比較的入手し易いはず(名盤ほど廃盤になる『ピアソラの法則』があるので油断はできないが…)。ピアソラ初心者にぜひお勧めしたい。

March 22, 2009

Piazzolla: Tango: Zero Hour

★★★★★(必携・自他共に認める名スタジオ録音)
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ここにあるのは硬派なピアソラだ。触れただけですぱっと切れてしまうような緊張をスタジオ録音によって閉じ込めた。間違いなく後期五重奏団録音の最高峰である。私が初めて購入したピアソラの演奏はこれだったのだが、開始30秒でのけぞるような衝撃を受け、そしてピアソラ探求道に入り込む羽目になった音源である。

読経のような人の声、笑い声、ピアソラ自身の声が不気味に重なるオープニングに続くのは、硬質で極端に重いタンゴのリズムに乗せられた半音下降の主旋律が印象的なTanguedia III。どこまでも官能的な天使のミロンガ(Milonga del Angel)、そして五重奏のための協奏曲(Concierto para Quinteto)とすべてが名曲ぞろい。しかし個人的に一番押したいのは、Mumukiである。切ないほどの愛にあふれ、(誇張ではなく)涙なしでは聴けない。

この音源といつか紹介したいと考えているラ・カモーラ(La Camorra)は、ジャンルを超えた永遠に不変的な音楽を刻む銘スタジオ録音である。

June 3, 2006

Piazzolla: New Tango

★★★★☆(バートンのクールな競演)
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ピアソラのキンテートが世界的なジャズ・ヴィブラフォン奏者であるGary Burtonと1986年にモントルー(スイス)で演奏した模様(おそらくジャズフェスティバル時)を収めたもの。このCDは(月並みな表現で恐縮だが)『ジャズとタンゴが出会った』名演である。ほとんどの曲が書き下ろしのようで、特にVibraphonissimoは、ピアソラの得意とする3-3-2リズムを低声部旋律としてバロック音楽のように織り込んだ、カッコいい旋律だ。バートン自身は後のBBCのインタヴューで「ピアソラの音楽は全てが楽譜に書き込まれており、ジャズ畑の人間としては、まずそれに慣れるのが大変だった」と懐述しているが、聴衆との相互作用で生じる即興性を大切にしていたピアソラのキンテートもジャズマンから見れば、まだ音楽の枠がきっちり決まっていたということだ(拘束の度合いはどちらかというとバロック音楽ぐらい?)。CDにはボーナストラックとしてMuerte del Ángel(天使の死)が入っており、これも名演。

ただ、同じ面子で日本をツアーしたときの方が素晴らしい演奏だったという話もあるようだが、それが聴けないことを悔しがらずにそれをを想像して楽しみたい(でも本音は悔しい)。

May 29, 2006

Piazzolla: En el Teatro Regina(レジーナ劇場のアストル・ピアソラ)

★★★★☆(ピアソラ初のライブ録音)
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ここで紹介するのは「ピアソラの定番」とされている有名盤。いわゆる前期キンテートの高みを示す素晴らしい選曲と内容だ。意外かもしれないがこれがピアソラに限らずタンゴ史における初のライブでの収録で、1970年にブエノスアイレスのテアトロ・レジーナで録音された。何故そんな近年(?)までライブ録音がされなかったのかというと、(以下、完全に受け売り)タンゴというのはブエノスアイレス固有のものであり、その都市の人間は生演奏のタンゴは街中でいくらでも聴くことができ、逆に街の外の人間のタンゴのライブ録音の需要というものがなかったからということらしい(そりゃマイナーな音楽ですから)。
まず、Porteñoシリーズ(いわゆる「ブエノスアイレスの四季」)の全曲が一気に聴くことができるという意味で非常に価値がある。バラでよければもっと良い演奏はあるのだが、同じ面子、同じテンションでひととおり聴けるのはこのアルバムだけ。ちなみに、Buenos Aires(ブエノスアイレス、この言葉自体は「綺麗な空気」という意味)が何故Porteñoになるのか。最近知ったのだがその理由は、La Plata(ラプラタ川)の河口にある「港町」(英語のportと同じ語幹を持つ)だからということのようだ。
更にコントラバス奏者の名前を曲名にしたKicho(キチョ)やBuenos Aires Hora Cero(ブエノスアイレス午前零時)など他の曲もどれもこれも素晴らしい。

ピアソラ好きと公言するなら、このアルバムを所有していなければモグリ。

May 27, 2006

Piazzolla: Live in Tokyo 1982

★★★☆☆(日本が世界に誇るタンゴシンガー藤沢嵐子さんとの競演)
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80年代、ピアソラは地球の真裏に位置するブエノスアイレスからはるばる日本までツアーに数回来ている。その記念すべき初来日公演の様子を収めたCDが来日後22年も経って2004年に発売になった。ひさびさの新譜ということもあって国内のピアソラファンの間では話題になったようだ。実はこの演奏NHKが収録していてFMでオンエアーもされたらしいのだが、NHKがテープを破棄してしまったおかげ(?)でライブ録音の存在は知られていてもなかなか聴くことができずに幻とされていた。しかしコレクターが保存していたカセットテープをリマスターやミキシングなど色々な技術を駆使してようやく発売にこぎつけたようだ。演奏内容は良く、藤沢嵐子さんとの競演は名演だと思う。(ピアソラ本人が毛嫌いしていたが)日本公演サイドの要望で演目に入れたというLa Cumparsita(ラ・クンパルシータ)も収録されている。おそらく後期キンテートのピーク時期だった83年や84年のライブ録音群に比べればアンサンブルに難はあるが、まとまったライブ録音の記録として十分価値があると思う。デニムで上下を決めたピアソラを写したジャケットもかっこいい。
が、いかんせんカセットテープ特有のヒスノイズが気になるし、低域が落ちているお陰でコンソーレのコントラバスがイマイチ聴こえ難いのが欠点。それにアンサンブルの精度も良くない箇所が気になるのでこの星数となった。

もうじき発売される予定である1984年のライブ録音「東京のアストル・ピアソラ」にも期待したい。後期キンテートのライブ録音群をあらかた聴いた方にお勧め。

May 24, 2006

Piazzolla: Live in Wien(ライブ・イン・ウィーン)

★★★★★(入手困難なスーパー録音)
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後期キンテートは選りすぐりの優れた録音が多いが、ここで紹介するのはその中でもトップレベルのライブ録音であり、以前別項で記述した“Tristeza un de Doble A”(AA印の悲しみ)と双璧を成す1983年の定番ライブ録音。録音場所も同じウィーンの劇場で行われている。このCDはVol.1と銘打たれているようだが、Vol.2は結局発売されることはなかったらしい。
Decarissimo(デカリシモ)、Riverado(リベラード)、Verano Porteño(ブエノスアイレスの夏)などすべてが高精度でノリの良い名演ぞろい。特に、ヨーヨー・マのおかげでピアソラの代表曲となってしまったLibertango(リベルタンゴ)では疾走感あふれるシーグレルの素晴らしいピアノソロが堪能できる。もともと16ビートのパーカッションを大胆に取り入れた曲が、作曲家本人によって分解され、キンテートを用いて見事に再構築されている。
残念ながら「AA印の悲しみ」と同じように廃盤になって久しく、再発売が望まれる音源である(ネットオークションでは法外な値段で取引されているようだ)。私がピアソラを聞き始めたころにはまだ店で簡単に入手できたのだが…。

May 21, 2006

Piazzolla: Muerte del Ángel(天使の死~オデオン劇場1973)

★★★★★(一時的に編成された70年初頭のキンテートの貴重な録音)
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ピアソラのCDの題名は中身をワザと分かりにくくしているのではないかと勘ぐってしまうようなものが多く、海賊版の存在と相まって優れた録音の収集の妨げになっていることは確実である。再発売時にアルバム名を変えてしまうことも多く、曲を減らしたり追加したりで散々な扱いをされることが多い。こうしたところが、素晴らしいピアソラの音源が普及する妨げになっているのではないかと思うと残念である。

ここで紹介するCDは確かにタイトルトラックの「天使の死」は含まれているのだが、この曲だけが突出しているということもなく、構成そのものは普通のライブ録音である。しかし、このCDは実は非常に貴重だ。実はこのキンテートは一時的に編成されたらしく録音がほとんど残されていなかったが、ピアソラの死後に未発表音源として発売された。この録音がなされた1973年の前にピアソラはキンテート(ピアソラ、ゴシス、ルイーズ、アグリ、キッチョのメンバーによるいわゆる「前期キンテート」)を解散し、オクテート(八重奏団)で活動をしている。ここのキンテートはそれともちょっと違う面子で構成されており、ピアソラの他のメンバーはOsvaldo Tarantino (p)、Antorio Agri (vn)、Kicho Diaz (b)、Horacio Marvicino (g)であるが、一番の特徴はピアノのタランティーノだ。

タランティーノは左手の和音に特徴があり、右手は自由自在な即興演奏。Otoño Porteño(ブエノスアイレスの秋)では途中からご機嫌なソロに突入し、マルビチーノとの掛け合いの相乗効果でタンゴの領域をはみ出ている。他のメンバーも感化されたのか、ノリが良く密度の高いアンサンブルを聴かせてくれる。Adiós Noninoもピアノソロが独特で名演。
録音は基本的にモノラルでところどころ音も割れているし、変な編集のおかげで(マスターテープに問題があったのかもしれないが)前述のソロも一部が欠けており、決して褒められたものではない。だが、それを補って余りある演奏内容。この編成の音源がこれしか残されていないのは実に残念。

初心者が最初に聴くにはちょっとつらいかも知れないが、Tango Zero Hourやen Teatro Reginaなどの有名どころを聴き飽きた方には是非お勧めしたい。

May 18, 2006

Piazzolla: Hommage à Liège(リエージュに捧ぐ)

★★☆☆☆(あの「タンゴの歴史」初録音だが…)
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たまには素晴らしいCDだけではなく、あまり関心しなかったのも紹介しておいたほうがよいだろう(あくまでも私見ですのでご了承の程を!)。「リエージュに捧ぐ」と題されたこの録音は、リエージュ国際ギターで演奏されたバンドネオンとギターとオーケストラのための協奏曲を前半に据え、後半は「タンゴの歴史」のスタジオ録音を収録したちょっと中途半端な構成のCD。オーケストラの演奏によるAdiós Nonino(アディオス・ノニーノ)は重厚な音色と意外なオーケストレーションで聴かせてくれていはいるし、「リエージュに捧ぐ」という名のドッペル協奏曲も興味深い内容ではあるのだが、どちらかというとラテン風味のクラシックという感じ。後半の「タンゴの歴史」も初演とあるが、今となってはこれよりも良い演奏のCDは山ほどあり、本当に「初演記録」という以外には特筆するような価値が見られない。

コレクター向けかと思う。

May 9, 2006

Piazzolla: Concierto en el Philharmonic Hall de Nueva York(ニューヨークのアストル・ピアソラ)

★★★☆☆(美しき悪魔)
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1980年代はピアソラ後期キンテート(五重奏団)の黄金時代であり、名演をたくさん生み出しているのだが、ピアソラの音楽活動の中で決して忘れてはならないのが前期キンテートだ。ピアソラは前期のキンテートでもたくさんの優れた録音を残している。ピアソラ以外のメンバーはJamie Gosis(p)、Antorio Agri(vn)、Kicho Diaz(b)、Oscar Lopez Ruiz(g)と、Ruiz以外は後期メンバーとは異なる面子だが、ひょっとすると後期キンテートよりも優れた奏者が集まっているのではないかと個人的には思う。
ここで紹介するCDの題名「ニューヨーク・フィルハーモニックホールでのコンサート」(邦題:「ニューヨークのピアソラ」)はただのツリ文句で、実際には米国でのコンサートツアーからの帰国後のスタジオ録音だそうだ。ここでは「天使」シリーズと対をなす(のか?)「悪魔」シリーズが収められているのが大きな特徴で、特筆すべきはその非常に濃い内容。Tango del diablo(悪魔のタンゴ)の強烈な不協和音による衝撃を受けた後は、それは美しいRomance del diablo(悪魔のロマンス)。録音はもちろん1960年代の「それなり」ではあるが悪くはない。ゴーシスのピアノは素晴らしく、アンサンブルの完成度は高い(スタジオ録音なので当たり前か)。

May 6, 2006

Piazzolla: Pugliese (Finally Together)

★★★★★(セクステートによる演奏の決定版)
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1989年にオランダに於いて、同じくモダンタンゴの大家のプグリエーゼと共に、同じステージで演奏したライブ録音2枚組。一枚がプグリエーゼのオルケストラティピカ、もう一枚がピアソラのセクステート(六重奏団)が中心となっている。以前は「Finally Together」という名前でカリカチュア風のジャケットをまとって発売されていたが、廉価版として2枚まとめて再発売された(値段は安いが「海賊版」ではなく「廉価版」である)。ピアソラの音楽人生最後期に結成されたセクステートの演奏としては最良の出来だと思われる。録音も優れており、舞台・客席の様子が手に取るように分かる。
セクステートは、バンドネオン×2、チェロ、ピアノ、コントラバス、エレキギターの編成で、重いリズムが特徴的だ。ピアソラ以外のメンバーは、Daniel Binelli (bn)、Jose Bragato (vc)、Gerardo Gandini (p)、Horacio Malvicino (g)、Hector Console (b)。ここに収められた全ての演奏は白眉であるが、特にLuna(ルナ)は密度の高い名演。途中でピアソラ自身がページをめくり損ねて演奏が止まってしまい、曲が終わったと勘違いして拍手を始めた聴衆を制するために"I forgot to open the page!"とMCを入れるのが惜しい。ところが、聴き込むうちにこれも味のうちと思えてくるのが不思議。
プグリエーゼ盤、ピアソラ盤の両方とも最後のトラックとしてLa Yumba(ラ・ジュンバ)~Adiós Nonino(アディオス・ノニーノ)のメドレーが収められているが、中間部のガンディーニのラ・ジュンバのメロディをちりばめたピアノソロを経由してプグリエーゼのオルケストラティピカとピアソラのセクステートの合奏でアディオス・ノニーノが始まる瞬間は、最高のカタルシス。

この内容でこの値段は絶対お得ですよ、奥様。

May 4, 2006

Piazzolla: Tristeza de un Doble A(AA印の悲しみ)

★★★★★(必携)
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ピアソラは、80年代に活動していた後期キンテート(五重奏団)で(このCDのタイトル曲)Tristeza de un Doble A(AA印の悲しみ)を好んで取り上げていた。1970年頃のオクテート(八重奏団)で初めて録音したものが、この頃にはコントラバスの下降音形に乗せた即興演奏の塊のような演奏に進化しており、おそらく聴衆のウケが良かったからだろう。事実、別項で紹介しているLive at Montreal Jazz Festivalでは、耳の肥えているであろうジャズの聴衆が熱狂している様子が見られる。無理やり型にはめて表現するのであれば「タンゴのリズムに乗せたモダンジャズ」といったところか。
ここでは、さすがタイトルにするだけあって演奏は最上の出来で、ライブ演奏であることが俄かには信じがたいぐらいの完成度の高い演奏だ(録音もすばらしい)。テンポも他の演奏と比べると少々ゆっくり目で、実に深い感動的な「悲しみ」が堪能できる。もちろん他の収録曲もデキが良い。

しかし、これだけの素晴らしい録音が、新盤として手に入れることができない所為で、聴くことが叶わない人がいるというのはもったいなさ過ぎる(かく言う私もなかなか入手できずに友人のCDを借りてようやく聴くに至った)。もしどうしても聴きたい場合は、米国のiTunes Music Storeで手に入れるという裏技があるようだが、そんなことをしないで済むようLive in Wienと併せて再発売を切に願いたい。

April 29, 2006

Piazzolla: Live at the Motreal International Jazz Festival(ライブ1984)

★★★★☆(文字通りの熱演で後期キンテートの実体を知るのに最適)
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1984年のモントリオール国際ジャズフェスティバルでの演奏。没後久しいピアソラだが、演奏風景つまりバンドネオンを弾いている「動く」ピアソラが見られる数少ない貴重な演奏DVD(左)、またそれと全く同じ内容のCD(右・最近ビクタージャパンから「アストル・ピアソラの至宝」シリーズの一環として復刻。しかし、正直なぜ内容が分からなくなる題名にしなければならないのか理解に苦しむ。輸入版には同じジャケットで“The Montreal Jazz Festival Concert”と言う題名になっているのがあるにも関わらず)。

DVDは音が圧縮符号化を用いて収録されているため音質に多少難がある(もちろんCDにはその問題はない)。それにDVDとCD共にTristeza de un Doble A(AA印の悲しみ)の途中で音がおかしくなるのが無念。しかし、総じてハイレベルな演奏であるから両方とも買って損はない(もっともDVDは現在メーカ在庫切れで入手困難なようなので、万が一店で見つけたら即買いをお勧めする)。
当日の会場は非常に暑かったようで、DVDではメンバーが汗を飛び散らせながら演奏する姿が見られ迫力がある。ピアソラもとても還暦を越えた老人の立ち振る舞いには見えず、涙が出るほどカッコいい。このライブでも例に漏れず「AA印の悲しみ」の前にMCを入れているが、モントリオールはフランス語圏ということもあり、ピアソラのフランス語(パリの留学時に身につけた?)が聞ける。

April 28, 2006

Piazzolla: Sinfonia de Tango(シンフォニア・デ・タンゴ)

★★★☆☆(ピアソラ原点ここにあり)
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以前に予告したとおり、私なりのピアソラのディスコグラフィを記述してみようかと思うのだ。実はピアソラには「海賊版」と呼んでも差し支えのない劣悪な録音がたくさん出回っており、そのような録音はえてして格安の値札がついて店に並んでいることが多い。以前、何も知らない私はその安さに惹かれてそれらを購入し、聴いてみて失望することが多かった。「ピアソラってこんなものか」と。
ところが、80年代のスタジオ録音に出会って、その認識は全然間違っていたコトが分かった。この分野では有名な斎藤氏が著した「闘うタンゴ」に付録として記載された膨大なディスコグラフィにあるような正しい情報を手に入れていれば、極上の録音にありつくことができるのだ。
こうして私のピアソラCDコレクションへの道が始まった。筋金入りのコレクターからしてみれば、吹けば飛ぶようなチャラいコレクションかもしれないが、私なりにいろいろと揃ってきて耳も肥えて来たようなのでピアソラの布教活動の一環として書いてみようと思う。

ということで、ピアソラの膨大な音楽活動の原点ともいえる録音で始めてみよう。ナディア・ブーランジェ(ストラヴィンスキーなども教えた教育者)に学びながらタンゴで食っていくことを決めた直後(1955年)にパリで録音したもの。時代が時代なので録音はモノラルで音質もそれなりではあるが、非常に素晴らしい内容。ここで紹介した演奏を含むパリ時代の録音の集大成「パリ1955」というディスクが廃盤のため入手困難なのが惜しまれるが、せめて一部を補完するという意味でも(別項に挙げる予定の)Para Colecctionistasのボーナストラック群と併せて聴きたい。