1998.12.18 「第9の楽しみ方」

何故か年末行事になっている第9ですが、 毎年この曲を歌っている/演奏している人にクイズです。 一番最初にでてくるパートは2nd Violin(*1)ですが、 一番最後に出てくる楽器は何でしょう?

トロンボーンと答えた人は、オーケストラの玄人です。 古典派から前期ロマン派のオーケストラの曲は、 トロンボーン奏者には確かに試練の多い曲ばかりです。 シンバル/トライアングル/バスドラ(*2)と答えたあなたは、 間違いなく打楽器奏者。 4楽章のトルコマーチまでティンパニの活躍(特に2楽章)を横目に、 ヒタスラ待ち続け、`Vor Gott!'(*3)の合唱が終った後に、 厳かに「チン、ドン」とはじまる。確かにこれが最後の様に思えます。

ところが、実は正解はピッコロです。前述の「チン、ドン」がはじまった直後に、 マーチの旋律を吹くのが実はピッコロで、シンバルの1拍ぐらい後に始まります。 この時点まで、ピッコロに書かれた音符は一切ありません。 この曲はフルートとの持ち替え(*4)はないですし、 フルートは木管前列に位置しますので楽章の間で後から入る訳にも行きません。 つまり、ピッコロ奏者は60分ぐらいフルートの活躍を横目に、 ヒタスラ待ち続けることになります。

待つと言っても舞台上で待つ訳ですから、煙草を吸ったり、 ハナクソをほじったり、くつろいだりすることはできません。 舞台上で動けば非常に目立ちますから、じっとしていなければならない訳です。 せいぜい出来ることと言ったら、寝ることです。私の場合、 舞台に乗って自分の席に座った途端にうつむき加減にして目を閉じ、 聴いているフリをします。この恰好だと、聴いているのか寝ているのか、 見ただけでは分からないからです。 ただ、間違ってもガクとかやってはイケマセン。

今度第9を聴きに行く機会がありましたら、舞台の片隅でピッコロ奏者が 何をしているか見てみるのも楽しみのひとつではないでしょうか。

注:

(*1) 2nd Violin
トレモロに聴こえますが、32分音符を弾いています。 他に木管楽器も吹いています。
(*2) バスドラ
バスドラムのことで、大きなドラムのことです。「ドン」という音がします。
(*3) `Vor Gott!'
4楽章中間部で一番盛り上がる場所。ゲネラルパウゼ(総休符)があるので、 曲を良く知らない人は、ここで拍手したくなる衝動に駆られます。
(*4) 持ち替え
フルートとピッコロは親戚の様な楽器なので、 後期ロマン派になると、両方持ち替えて演奏されることがあります。

今日の推薦CD:
L.v.Beethoven : "Symphony No.9"
Monteverdi Choir and Orchestre Revolutionarie et Romantique, John Eliot Gardiner
Deutsche Grammophon Archiv

古楽演奏の技術もここまで来たかというぐらいのハイレベルな演奏。 畳み掛けるようなガーディナーお得意の特急テンポで、 ぐいぐいと音楽が進んで行きます。 「チン、ドン」も例に洩れず、多分業界最速。 しかし特筆すべきは合唱で、とても小人数で歌っているようには聴こえない 素晴らしい演奏です。「さすがモンテヴェルディ合唱団」と、うならせられます。 ソリスト歌手陣もソプラノはB.Bonny、アルトにはA.S.von Otterと豪華絢爛。

このCDはバラで買うよりも、チクルスとして全集をイッペンに買った方がお得です。 世の中に流布している全集の中には、 曲毎に出来不出来があるものがあったりしますが、 この人達の演奏は全てかなりの水準をクリアしてますので、全集としてお勧めします。


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Copyright (C) 1998 Yusuke Hiwasaki