1999.03.26「RとL Part2」

前回の「RとL」では、RとLの混同現象について 書きましたが、もうちょっと掘り下げて見ましょう(*1)。 ちょっとカタイ話になってしまいますが…。

`r'と`l'の発音が「近い」ので混同しやすいと書きましたが、この「近い」とは、 「舌が口蓋にもっとも接近(接触)している位置がほぼ一緒」と意味です。 ただ、この二つの子音には、

というもっとも大きな違いがあります。

つまり、英語ネイティブの人にとっては、`l'と`r'というのは違う子音です。 本当に違うんです。例えるなら、`m'と`n'ぐらい。 もっと例えるなら、`p'と`w'ぐらい。

実は、`l'と`r'の間違い、アチラの人は日本人を笑うネタにするぐらい有名です。 これを読んでいる人には、是非とも実践して連中の鼻をあかしてもらいたいモンです。

ところで皆さんは、50音順て何で決まっているかご存知ですか? 実は、(あ行は別として)子音の発音箇所が喉の奥から唇の先まで登って来て、 最後には摩擦子音になって行くという順序になっているようです。 実際に発音して見ると分かりますが、ちょっと整理して書くと、

カ行(k):舌の後方で発音
サ行(s):舌中央から先端にかけての摩擦
タ行(t):舌先端で発音
ナ行(n):鼻濁音(舌による閉塞)
ハ行(h):(古くは)唇による摩擦音
マ行(m):鼻濁音(唇による閉塞)
ヤ行(y):非接触子音(接近部分が舌の後方)
ラ行(r):非接触子音(接近部分が舌の前方)
ワ行(w):非接触子音(接近部分が唇)
というようになっています。

意外と有名な事実は、ハ行は古くは唇の摩擦音だったということで、 現在のように子音を`h'を用いて発音していたのではなく、 `f'を用いていたのです。例えば、母は「ファファ」と発音していたんです。

さらに脱線するならば、私の専門楽器の「笛」は、ローマ字表記で[fue]と発音します。 オナラの意味の「屁」は現在では[he]と発音しますが、 昔は[fe]と発音してたことになります。 そうすると「ふえ」は「ふぇ」がナマッたものだという風にも 考えられませんでしょうか。 つまり、無害であれ有害であれ、 気体の流れで音が鳴るのが「笛」でもあり「屁」でもあるということなわけですね。

オナラ大魔王である私にとって、 「ふえ吹き」と呼ばれようと「ふぇ吹き」と呼ばれようと、 実はあんまり関係なかったりもするんですけどね。

(*1)掘り下げてみましょう
「音声」は私の専門分野だったりするので、ちょっと話しやすいんです。
(*2)舌
業界では、ゼツと読みます。知っていると、ちょっと通ぶれます。
(*3)口蓋
口の中の屋根の部分。 「海苔がぺたっとくっついてとれなくなる所」と言った方が、 分かりやすいかも知れません。

今日の推薦CD:
「18世紀ドイツ<<新時代>>のフルート音楽」
有田正広(fl), 中野哲也(gamb), 有田千代子(cemb)
DENON Aliare, COCO-75025, 1992

「ふえ」(「ふぇ」じゃないですよ)のCD。この「新時代のフルート音楽」とは、 バロック音楽と古典派の音楽の間に挟まれた、 「疾風怒涛」の時代の音楽を表し、その時代の作曲家の作品を集めた、 オムニバスCDになっています。作曲家の中には、 あの「フリードリヒ大王」も含まれています。 演奏は日本を代表する古楽演奏家の有田夫妻と、「てっちゃん」こと中野哲也氏。

「疾風怒涛」は18世紀ドイツで起こった多感様式のことを表しますが、 特に文学の世界で良く使われる言葉です。意外に知られていないのが、 音楽の世界でもこういう時期があったと言うこと。代表的な作曲家としては、 大バッハ(J.S.Bach)の息子であるC.P.E.バッハがおり、 プロシアのフリードリヒII世(いわゆるフリードリヒ大王)の宮廷を中心に 発達しました。バロックばかり聴いている耳には、 意外に前衛的な曲想にびっくりすることでしょう。 比較的おとなしめな印象のある古典派とバロックの間に、 こんなにイキイキとした音楽があるのは逆に新鮮です。

演奏は素晴らしいデキ。 超絶技巧のフルートはもちろん、まるでチェロの様な大胆なガンバは、 18世紀後期の音楽というハンデをモノともしません。 このCD、切り貼りなしで楽章単位の録音をしたそうです (現在のCD製作で切り貼りをしていることは有名な事実ですね)。 ほんの一部崩れそうな所があるものの、 ライブコンサートのような緊張感のある演奏になっています。

有田氏の師匠であるB.クイケンもCBS Sonyから同様のCDを出していますが、 美しいことは美しいのですが、比較的おとなしめな印象を受けてしまいます。 日本人の耳には若干刺激的な有田氏の演奏があっているかもしれません。


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Copyright (C) 1999 Yusuke Hiwasaki