1999.07.20「高いが、低い」

先日「もののけ」を見る機会がありました。しかも「もののけ」です。 いや、正確には、米良美一(カウンターテナー)氏の リサイタルを聴きに行っただけだったんですけどね。 会場は、自宅近くの府中の森芸術劇場のウィーンホール(中ホール)でした。 そのホールには演奏会を聴きに行ったり、 演奏者として舞台に登ったこともありますが、満員状態を見るのは初めてでした。

内容については、米良氏も 最初のうちは音程も定まらずイマイチな感じがしていましたが、 後半のプログラムの日本の歌を歌う頃には調子がでてきて、 アンコールも盛り沢山の、全体的に素晴らしい演奏会でした。 伴奏の北原葉子氏も素晴らしいサポートでした。

ところで、皆さんはカウンターテナーのことをどれだけご存知でしょうか?

私もそれほど詳しくはないのですが、まず、基礎知識から行きましょう。 一般的に声楽の声域を大きく分けると、高い方から

という風に並びます。 通常だと、アルトまでは女性、 テノール以下は男性が担当することが多いのですが、 カウンターテナーというのは男性がアルトの声域を歌うことを指します。 男性は、ほぼ例外なく成長の過程で「声変り」(変声)を経験しますので、 アルトの声域となると頭声(裏声)で歌うことになります。 ちなみに、変声期の前の男の子なら裏声で歌えば相当高い音が出ますので これは一般的に「ボーイソプラノ」と呼ばれます。

ところが、男が裏声で歌うと、どうもいろいろ誤解が生じるようです。

私が聞いたことのある一番大きな誤解は、

「カウンターテナーにはタマタマちゃんがない」

でした。 この「タマタマちゃん」とは、 御想像の通り男性諸氏の股間にぶら下がっているモノです。そう、 「♪たんたんた〜ぬき〜の◯んた〜ま〜は〜」の 「き◯たま」と同じモノです(シツコイ)。これは非常に酷い誤解なのです。

実は、「タマタマちゃん」がないのはカストラートという男性ソプラノで、 20世紀初頭には去勢手術は禁止されていますので、 現在タマタマちゃんのない歌手はいないハズです。 つまり、私自身がカウンターテナーのタマタマちゃんを、 全て指さし確認した訳ではありませんが、

カウンターテナーにタマタマちゃんはある! …筈

と声を大にして(?)主張しておきましょう。

と、「高い音域の話題だけど品位は低い」話もこれにて終了。

今日の推薦CD:
「Lamento d'Arianna」
米良美一(ct), 宇田川貞夫(gamb), 芝崎久美子(cemb), 永田平八(lute)

ということで、おそらく米良氏のデビューCDにあたるモノを御紹介します。 ヴィオラ・ダ・ガンバ演奏でもクレジットされている宇田川さんが設立した、 Cecileという、いわゆる「インディーズ」レーベルからの発売です。 このCDは「もののけ姫」などでメジャーになる前のモノで、 最近あまり見かけませんから、手に入れることができた人はラッキーでしょう。

内容としては、初期バロックの歌曲をオムニバスで集めてあり、 CD題名にもあるように、 モンテヴェルディの「アリアンナの嘆き」 (前回の話題にもでてきました)を メインに持って来てあります。 このCDには、他に芝崎さんのソロが一曲あるぐらいですので、 コアな「米良ファン」にはタマラんモノがあるかもしれません。

さすが日本の古楽界では有名な通奏低音奏者を集めただけあり、 低音のサポートも良く、米良氏もテクニック的には現在より劣るモノがあるにせよ、 素晴らしい出来。初期バロックの歌曲を満喫したいならオススメの1枚です。

ちなみに、このジャケットの写真に写っている米良氏は、 現在のように中性的(これって、狙ってるんですよね)ではなく、 フツーの男の子然としています。いま、 米良氏というと化粧ばりばりの写真ばかりなので、かえって貴重な写真かも。


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Copyright (C) 1999 Yusuke Hiwasaki